銀時も、神楽も、新八が起こさなければいつも昼まで寝ていた。
自宅から通っている新八が万事屋に来てまずすることは、彼らに一声かけることだ。
「神楽ちゃん、朝だよー」
押し入れを開けた新八は、次に銀時が寝ている和室の襖を開ける。
神楽はともかく、ぐうたらな生活が身に付いている銀時を起こすのは毎朝一苦労だ。
最近は「結野アナが
TVに出ていますよ」と言えば目を覚ますことを発見したが、昔は布団を引き剥がしても部屋の隅に寝転がっていびきをかいていた。

 

「・・・神楽は?」
「えっ」
顔を洗って戻ってきた銀時は、まだ寝ぼけ眼で首を動かしている。
いつもならば、新八の用意する朝食にいち早く群がっていた。
それが今日はまだ押し入れから出てきていない。
「・・・具合でも悪いのかな」
心配になった新八が外から覗くと、神楽は布団を頭からかぶっていた。

「神楽ちゃん、大丈夫?」
「・・・・」
もそもそと動いて顔を出した神楽の額に、新八が掌を当てる。
熱はないようだ。
「平気ネ。昨日、少し遅くまで
TVを見過ぎただけアル」
半身を起こした神楽は、やはりどこか緩慢な動作で押し入れから出てくる。
はっきりとは言えないが、何か、普段の彼女と違っているような気がした。

「おかずは何アルか」
「あじの開きと大根のおつけ物と茄子の味噌汁」
質素だが、神楽の好きなものばかりのメニューに、彼女はにっこりと笑う。
その笑顔にも元気が無く、新八の不安はより一層増した。
「かぐ・・・」
「何やってんだー!早く、飯食うぞー」
新八の言葉は、後ろから呼び掛ける銀時の声にかき消される。
定春をまじえての、いつもの朝食の席。
勘の鋭い新八と違い、神楽にトイレットペーパー購入を頼む銀時は、彼女の異変に全く気付いていないようだった。

 

 

 

曇り空の下、傘を差して歩く神楽の足取りは重い。
天敵である太陽の光はないのに、何をするのも億劫だった。
体の至るところに、思うように力が入らないのだ。

「みんな、意地悪ネー・・・」
買ったばかりのトイレットペーパーを引きずって歩きながら、神楽は呟きをもらす。
太陽は夜兎の彼女から容赦なく体力を吸い取っていく。
そして月は彼女を優しく守り、力を与える母親のような存在だ。
だが、月の満ち欠けに影響されやすい体質は、夜兎の強みでもあり、弱点でもあった。

 

足元のその影に気付いた神楽は、顔を上げるなり「げっ」と声を出していた。
神楽のもう一つの天敵、真選組の沖田が刀を構えて自分を見ている。
こうして始まるのは、いつも通りの喧嘩だ。

「どーしたい、チャイナ。隙だらけですぜ」
居合い技を学んだ彼の太刀さばきは早い。
自分の喉元に当てられた刃を、神楽は微動だにせず見つめる。
よけないのではない。
よけられなかった。
沖田が本気ならば、神楽の首は簡単に飛んでいたはずだ。

「・・・・チャイナ?」
眉をひそめた沖田の腕の中に、足元をふらつかせた神楽が倒れ込む。
「おいおい。色仕掛けに変更かい」
「馬鹿・・・・」
彼の服を掴む神楽は、立っているのがやっとだ。
他人に弱みは絶対に見せたくはないが、沖田の顔は珍しく真剣で、どうにも誤魔化せそうな雰囲気ではなかった。

 

 

満月の夜、夜兎の一族はフルパワーの力が発揮できる。
だが、その逆で新月の夜は、常人の半分以下の力しか持ち得ない脆弱な生き物になるのだ。
一族の掟で、このことは誰にも口外しないことになっている。
戦闘民族として活動する夜兎にとって、他者にそれを知られるのは命取りだった。
一族以外の者に話したとばれれば、処刑されても文句は言えない。

 

「そういえば、昨日の夜は月が細っこくなっていたなァ」
青い顔の神楽に代わり沖田が傘を持ち、彼女は買ってもらった冷たいジュースを飲んでいる。
「じゃあ、新月のときは夜兎はみんなどうするんでェ」
「敵の来ないところに避難して、暫くじっとしているアル。一日過ぎれば、随分楽になるネ」
「へェ・・・」

先程から妙に違和感があるのは、公園のベンチに並んで座り、神楽が彼にもたれかかっているせいだろう。
沖田が闘いたいのは万全なときの神楽であって、こうして弱った姿を見るとどうも気がそがれてしまう。
「誰かに言うアルか?」
「・・・・」
不安げに自分を見上げる神楽に、沖田は顎に手を当てて考える動作をする。
「・・・・万事屋の旦那達にも内緒なんですかい?」
「うん」
「じゃあ、言わねーよ」

何故か嬉しそうに言う沖田に、神楽は困惑した表情になった。
会うたびに突っかかってくるというのに、彼はごくたまに優しくなる。
いい人か、悪い人か、分からない。
ただ、これから新月のときは周りが不審に思わないよう、一日休息に付き合ってくれるというのは有り難い申し出だった。
彼と会うと言って外に出ていれば、銀時と新八に弱った姿は極力見られないですむ。

 

「何でこんなに良くしてくれるアルか」
「近藤さんに、「弱い者を助けろ」と言われてるんでさァ」
普段の神楽ならその範疇にないが、今ならばしっかりと当てはまる。
もちろん、見返りは考えてあった。

「私、何もお返しできないアルヨ。酢昆布、食べるアルか」
「それはいらねーよ。ただ、付き合って欲しい場所がある」
「付き合って欲しい・・・、場所?」
そのまま繰り返した神楽に、沖田は意味深な笑みを浮かべる。
「遊園地の観覧車」


あとがき??
しつこく観覧車ネタ。沖田くん、チューを狙っていますね。(笑)
勝手な設定を捏造して申し訳ない。
随分前に考えたときは沖神の強姦ネタだったんですが、書けそうにないのでほのぼのにする。
なごりの超SS 

強引な沖田くんとか弱い神楽ちゃんが駄目な人は読まない方が・・・。

銀魂は好きだけどあまりSS書けないですね。
たぶん、原作に不満がないからだと思います。NARUTOは・・・・・・カカサク、望み薄!


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