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ランスロット様のお見舞いに行った帰り道、不思議な体験をしました。
私以外の人の時間が、全て止まってしまったのです。
周りにいた人達は、ゼンマイの切れた人形のように動きを止めています。
とっさに時計に目をやると、針も止まっていました。「君が泣いちゃう人?」
背後からかけられた声に驚いて振り返ると、見知らぬ少年。
いえ、その風貌は、つい先ほど聞いたランスロット様の見た夢に出てきたという少年、そっくりです。
まさかと思いつつ、私は訊きました。「あなたが、ランスロット様の夢に出てきた天使様ですか」
「天使?」
彼は口元に手を当ててくすりと笑いました。
「そう思いたいならそれでいいけど、君、僕と契約する気ない」私はその意味が分からず、首を傾けます。
確かランスロット様も同じ事を言われていたような。
「君の彼氏のランスロット君のことなんだけど」
「まーー!彼氏だなんて!!」
つい興奮して天使様の身体を叩いたら、彼は数メートル先まで飛ばされてしまいました。
大げさね。天使様はすぐに起き上がって一つ咳払いしてから話を続けました。
額に汗をかいてるわ。
具合でも悪いのかしら。「それでランスロット君だけど、パッティングに関して凄い才能を持っているね」
「その通りですわ!」
私は嬉しくなりました。
だって、ランスロット様のことを誉められると、自分のことのように嬉しいんですもの。
「でも、パター以外は、どうかな」
天使様の言葉に、私の表情も曇ります。
「どういう意味ですの」
訊ねたときの天使様の顔が、意地悪そうに歪んだような気がしました。「飛距離の問題だって大事だろ。パターの腕が良くても、それだけじゃプロとしてやっていけないよ。僕ならランスロット君の他の能力も伸ばすことが出来る」
天使様の、その真摯な声音に、私も緊張しました。
今、自分の目の前にいるのが、人ではない存在なのだと改めて認識します。
「君が魂をくれるなら、ランスロット君を歴史に名を残すプロゴルファーにしてあげる。どう?」私は全く躊躇することなく即答しました。
「遠慮しておきますわ」
天使様は、ちょっと驚いた顔をして私を見ました。
「どうして」
「だって、無用なことですもの」
私はにっこりと笑って答えます。「ランスロット様がどれほど努力なさっているか、私知っています。ずっと見ていましたから。貴方の力なしでも、ランスロット様は絶対に偉大なプロゴルファーになりますわ」
天使様の眼をしっかりと見据えて、私は断言しました。
心からの言葉なので、全く言いよどみはありません。
「私、信じています」私達は暫らくの間、睨みあっているのか、見詰め合っているのか、よく分からない状況で対峙しました。
そして先に相好を崩したのは、天使様。「君達って、面白いね」
気付くと、周囲の時間は通常どおり流れていました。
白昼夢だったのでしょうか。
見回しても、天使様の姿はどこにもありません。
条件と共に魂を要求する少年。
天使、それとも悪魔?私には天使、いいえ、神様のように見えました。
最後に見た彼の顔が、とても優しい笑顔だったからかもしれません。
あとがき??
ランスバージョンを書いたら、急に胡桃ちゃんも書きたくなって書き足したもの。
さらに、蛇足もあったりします。
まぁ、お好きな人だけ。何があっても自分を信じてくれる人がそばにいるってのは、ランスの最大の強みですねぇ。